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国際海上輸送における水素燃料導入に向けた政策課題:IMO規制と国内外の動向

Tags: 水素エネルギー, 海運, IMO規制, 国際政策, 脱炭素化

国際海上輸送の脱炭素化と水素燃料への期待

国際海上輸送は世界の貿易活動を支える基幹インフラであり、その排出量削減は地球規模での温室効果ガス排出量削減目標達成に不可欠です。国際海事機関(IMO)は、海上輸送からの温室効果ガス(GHG)排出削減目標を掲げ、その達成に向けた規制強化を進めています。この文脈において、水素は、燃焼時にCO2を排出しないゼロエミッション燃料の一つとして、将来の船舶用燃料の有力な選択肢として注目されています。

本稿では、国際海上輸送における水素燃料導入を取り巻く政策課題に焦点を当て、IMOにおける議論や規制動向、技術的・インフラ的な課題、そして国内外の動向を踏まえ、政策担当者が注視すべき論点について分析します。

IMOにおける船舶GHG削減目標と水素燃料の位置づけ

IMOは、2023年7月に改定されたGHG削減戦略において、2050年頃までに排出量ネット・ゼロを達成するという目標を掲げました。この目標達成のため、短期的な措置として燃料のGHG強度規制(FuelEU Maritimeなど地域的な動きとも連動)や技術的・運航的措置が導入・強化されています。長期的には、ゼロ・低排出ガス燃料への転換が不可欠であり、水素、アンモニア、メタノール、バイオ燃料などがその候補として挙げられています。

水素は、製造方法によっては「グリーン水素」として極めて低いGHG排出量を実現できる可能性があり、究極的な脱炭素燃料として期待されています。ただし、船舶用燃料として使用するためには、安全基準の確立、供給インフラの整備、燃料自体のコスト低減など、多くの課題を克服する必要があります。IMOでは、これらの課題に対応するため、新たな船舶燃料の安全ガイドラインや、GHGライフサイクル評価(LCA)に関する検討が進められています。

船舶用水素燃料導入における技術的・インフラ的課題と政策的支援

船舶用水素燃料の導入には、技術面とインフラ面で特有の課題が存在します。

技術的課題

インフラ的課題

これらの課題克服には、研究開発への支援、実証プロジェクトの推進、初期導入期のコスト負担軽減策(補助金、税制優遇など)、そして官民連携によるインフラ整備計画の策定と実行が政策的に必要となります。

国際動向と日本の政策への示唆

欧州や一部アジアの国々は、船舶用ゼロエミッション燃料への転換に向けた政策的な取り組みを加速させています。例えば、EUのFuelEU Maritime規則は、船舶燃料のGHG強度に上限を設け、低・ゼロ排出燃料の使用を段階的に義務付けるものであり、国際的な海上輸送にも影響を及ぼします。また、主要港湾では、船舶用水素バンカリングの実証や計画が進められています。

日本の政策としては、これらの国際的な動きと整合性を図りつつ、以下の点が重要となります。

結論

国際海上輸送における脱炭素化は喫緊の課題であり、IMO規制の強化を背景に、水素燃料を含むゼロ・低排出燃料への転換が加速しています。船舶用水素燃料の導入には、技術開発、安全基準の確立、そして特に大規模な供給インフラ整備という多くの課題が伴います。

日本の政策担当者にとっては、IMOにおける国際的なルール形成に積極的に関与するとともに、国内の港湾インフラ整備、関連技術開発支援、そして国際サプライチェーン構築に向けた官民連携と国際協力が重要な論点となります。これらの取り組みを通じて、国際海上輸送の脱炭素化に貢献し、日本の関連産業の競争力強化につなげることが期待されます。